ファッションでハッピーになれる、ということをカタチにしていく
CANALIZE meets HIROFUMI KURINO

2017.10.04

あくまでも着る人が主体。
服自体がよくなければ意味がない

――ファッション界にとって、この1年はどのようなものだったでしょうか。

「個人としては、ファッション業界や商品について報道するメジャーなメディアの体温と、デザイナーや生地メーカーといったモノをプロデュースする側の人たち、現場にいる我々、モノを買っていただくお客様、それらの間にかなり温度差があると感じています。例えば、ファッション業界について語る媒体、業界のジャーナリズムは“シーナウ・バイナウ”をよく話題にしていました」

――ファッションショーで発表されたアイテムをすぐに購入できる、というものですね。

「ニューヨークコレクションはその動きにいち早く反応し、一昨年くらいからそういった手法を導入しようとしてきましたが、日本のファッション業界やジャーナリズムは、“そうならないといけない”と思っている節があるようで、『日本は遅れている』といった旨の報道を散見しました。でも、どちらかというと僕はそれに対して懐疑的です」

――その理由とは?

「シャネルなどのメゾンも早々に『いいクリエイションを作ろうと思ったらできるわけがない』と宣言していましたし、トム フォードは間違いに気づいて元に戻そうとしています。確かに時代に合ったリクエストかもしれませんが、ショーは一種のパフォーマンスですから、時間、場所、キャスティング、音楽、空気、あるいは、そこで何分待たされたとか、そういうことも含めて感動が生まれるわけです。“シーナウ・バイナウ”が必要か必要でないかは、その観点が欠落している議論だと思います。見たモノがすぐに買えるような仕掛けがあってもいいけど、それを全員が目指す必要はないですよね」

――ファッションが多様化し、求められるものがさまざまになっている中で、業界ジャーナリズムには「一点に固執して、こうあるべきだ」という考え方も色濃く残っているように思います。

「システムやしつらえのことを気にし過ぎて、作り手やお客さんのことを忘れているのかもしれません。僕はここ2年くらいよく“ニューリアル”という言葉を使っていますが、今は新しいリアリズムの時代だと思っています。例えば、まさかと思ったドナルド・トランプが当選したことは、まさにアメリカ的な物質主義とにぎやかしの象徴です。パワーを持つ人に節操がないというのもまた、今の時代の表れ。それはファッションブランドも同じです。メジャーなブランドは国家予算並みにお金を持っているから、そうなるとやることがより壮大になっていき、そのスケールを巡る競争になっていきます」

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photo_MURAKEN
text_YUSUKE MATSUYAMA

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