つくり手自身が発信することで
ファッションの価値が変わる
――いつの間にかファッションがカウンターカルチャーではなくなったことで、社会への影響力が小さくなっているように思います。
「基本的にはそうなのかもしれないけど、その点に関してはこれから逆に影響力や存在意義が大きくなっていくようにも感じています。先日、パリコレクションを見てきたんですが、DRIES VAN NOTENやコム・デ・ギャルソンが、軍服や制服をテーマに戦争に対するアンチテーゼを表現していたんですよ。ドリスや川久保玲のように、実力があって、意識も高く、時代に敏感な人達はギリギリのラインでしっかり状況に向き合い、社会に対してメッセージを投げかけている。それを僕たちも感じることができます。一方で、ハイブランドがプロモーションや売り上げを重視した結果、デザイナーの意思とは逆行する動きをして、システムがファッションを壊してしまったという側面も見受けられます」
――“システムがファッションを壊している”という現状への対策はあるのでしょうか?
「生地屋さんのように、モノをつくる人たちが自身のメッセージを発信し始めるということでしょう。なぜならファッションシステムが壊したもののなかで、最も大切なことは“物づくり”だからです。今まで黒子のような存在だった生地屋さんや工場や糸屋さんや染色さんが物を言っていい時代になったのではないでしょうか。『クリエイションこそがすべてだぜ』と発信していくことには大きな意味があると思います。お客様の手前にいる人たちがお金儲けに走らず、本当に洋服が好きで、クリエイションが好きで、志を持って取り組んで頂ければ良い方向にむかっていくのではないでしょうか?。CANALIZEが発生したのも、そういう意志を持った人たちが立ち上がったからでしょう?」
――ありがとうございます(笑)。
「失礼ながら、数字優先の大手企業の幹部には『これからはウェブなんじゃない?』などと発言する人もいます。きっと彼らが見ている先にあるのはアメリカのファッション業界なのですが、実は去年の後半、アメリカのファッション流通業、特に高級デパートの業績がとても悪かったんですね。いろいろな原因が考えられますが、主な原因はECに客を取られたためで、高級デパートもウェブを強化すべきだと言われています。でも僕は、それは大きな間違いだと思うんです。同じようなものを売っているし、同じようなキャンペーンをやり、値引きばかりしていて、本来のように健全に流通させ、きちんと接客し、定価で販売しよう、という体制が彼らの地には薄すぎます。僕が4年前からやっている『ツイードラン』というイベントに参加してくれているニック・ウェスター氏やブルース・パックス氏は、アメリカの小売り業のど真ん中にいつつ、問題点がよくわかっている人たちで、『いいモノを、正価で、きちんとした販売員が売る以外に解決はないね』とコメントしていました。ウェブもいいかもしれないけど試着ができないし、何より日本の“あの販売員に会いたいからあのお店に行く”という文化はアメリカにはないんです。幸い弊社は販売員がしっかり頑張ってくれているほうだと思うので、マーケットが不振な中でも業績は悪くないです。あとは商品そのものを鍛え続けていくしかないですね」
栗野宏文/Hirofumi Kurino
1953年生まれ、ユナイテッドアローズ クリエイティブディレクション担当 上級顧問。大学卒業後、鈴屋に1年ほど勤務した後ビームスへ入社。ファッションにおける経験と実績を積み、1989年にユナイテッドアローズの立ち上げに参画、数々の要職を経て現在に至る。ツイードをおしゃれに着こなし、街を自転車で楽しく走ることを目的とした『TWEED RUN TOKYO』の実行委員長。今年、Vogue.comにて「ファッション界で最もスタイリッシュなメンズ30人」のひとりにも選ばれている。
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