軸を変えずに時代に寄り添うテクノロジー×ファッションの今
CANALIZE meets Kaie Murakami

2016.10.17

通称イノベーションは数あれど、

残っていくのは一握り

――それでは今後、洋服を取り巻くテクノロジーの変化としてはどういったものが考えられるんでしょうか?

「VRのような仮想現実が与える影響はとても大きくなっていくと思います。いま3Dプリンティングのようなイノベーションは多くありますが、VRに関しては全く異なる次元で起こるもの。それこそファッションって一体なんだ? 何を指してファッションっていうんだ? っていう、これまでのファッションについての価値を覆すインパクトがあります。今後、仮想現実が拡張し、SNSと接続する時代がやってくる。これは突飛な話に聞こえるかもしれませんが、インターネット上では織り込み済みの未来です。そこには当たり前に空間が形成され、そこで着る服を作るのに3Dデータが求められている。」

――衣服もデータとして扱われるようになるということですか?

「僕たちの身の回りにあるもの、簡単に言ってしまえば食品以外は製造過程において3Dデータになっているものがほとんどです。アパレルはCADデータにはなっていますが、いまだに3Dデータになっているものは、ほぼありません。いまネットでゲームや映画、音楽が月額固定で楽しめるように、VRが進化していくと、ジャニス・ジョップリンをapple musicで聴くように、例えば、60年代のジバンシイのドレスデータを100円でダウンロードし、仮想空間で自由に着るといったことが可能になる。これまで買えなかったブランド品が、安く身につけることができたり、ブランドにとっても過去のアーカイブを利用した新たなビジネスチャンスが生まれる。これは、過去に音楽やアート業界が、他メディアへのコンテンツ転用で実証されてきた世界です。また、これまでの服の製造についても、3Dデータを基本に考えれば、どちらの世界にも応用可能っていうコストバリューの観点から、商用に開発されていくことは容易に想像できます。より実践的な話では、いま原料抽出型の3Dプリンティングが益々発展していくと言われています。そんななかで、アパレルでは編物ベースの方が、他分野で言われる3Dの最終系に近く、進化のスピードも速い。編物の構造体は糸なので、その素材強度が高まっていけば、衣服だけでなくプロダクトや建築など幅広い分野に転用されていきます。すでにスペースシャトルの構造体には、この分野の最先端技術が使われているんですね。なにに使えるかではなく、なにを生み出したいのかで、テクノロジーへの捉え方はガラッと変わります。」

――失礼な話ですが、正直、イノベーションを使ってどんどんいろいろなことをやっていこうっていうタイプの方かと思っていたので、ものすごく冷静に現状をとらえられているのがちょっと意外でした。

「ぼくらの仕事って、どこまでいってもデザインなんです。アートやエンターテイメントとも違うし、生活に近いところで起こることを考えなきゃいけない。デザインの面白いところは、瞬間的に人を惹き付けるものが作れたとしても、その製品が社会で役立ったり、スタンダードなものとして根付いていくことができなければ、意味を成さないところ。これは趣味みたいなものなんですが、自分は地方の町工場から、最先端技術の開発研究の現場に足を運ぶといったことを日常的に足を運んでいろいろなお話を聞くようにしています。これまでアパレルからビューティ、食品、変わったところでは遺伝子研究など様々な分野のプロジェクトに関わらせてもらうなかで感じたことは、新しい技術って聞こえはいいんですが、そのほとんどが数年後に残っていないっていう儚さも抱えていることです。身近な話、ある商業施設がとてつもない大きさのプロジェクター設備を導入し、インタラクティブなコンテンツを導入しても、3年後には誰も見向きもしていないっていうこと、よくありますよね? こういった事例をぼくらは過去に余りあるほど見てきたはずです。歴史が証明している通り、発明だ! 技術革新だ! と騒がれるもののほとんどは、ソフトパワーや時代の才能と出会わない限り、花は開かないものです。なので、ぼくらは歴史や過去の文化にも目を向け、感性を磨いたり、本質が何かを見極める思考を持たなければならない。」

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Photography_MURAKEN
Text_Aya Fujiwara

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