2016.06.09
CANALIZE meets Makoto Tanijiri INTERVIEW
自ら建築家という肩書きを冠することで、
その職能を広げる
CANALIZE meets Makoto Tanijiri
谷尻誠/Makoto Tanijiri
1974年 広島生まれ。建築家、SUPPOSE DESIGN OFFICE 代表。穴吹デザイン専門学校卒業後、本兼建築設計事務所、HAL建築工房を経て2000年にSUPPOSE DESIGN OFFICE設立。共同代表の吉田愛氏とともに、これまで手掛けた作品は住宅だけでも100を優に超え、2010年ミラノサローネでの光のイスタレーション〈Luceste : TOSHIBA LED LIGHTING〉や〈まちの保育園 キディ湘南C/X〉など公共施設のインテリアデザインの仕事も話題に。住宅、商業空間、会場構成、ランドスケープ、プロダクト、アートのインスタレーションなど、仕事の範囲は多岐にわたる。現在は広島・東京の2ヵ所を拠点とし、インテリアから住宅、複合施設など国内外合わせ多数のプロジェクトを進行中。穴吹デザイン専門学校特任講師や大阪芸術大学準教授なども務める。
2020東京オリンピック後の
社会情勢と建築業界の今後
――建築家というのは社会との結びつきがすごく強い業種ですよね。そうなると地域のこととか、そこに住む人たちのことを必然的に考えていかないと成り立たないですね。
「そこに耳を傾けないと、まずいような気がしていて。例えば、洋服屋を作ってくださいというオーダーがあったとします。昔はこんなブランドで、品数がこれぐらいあるから、これぐらいのラックが必要で……みたいな感覚でした。でも今は、今度こういったブランドを作りたいんだけど、どうしたらいいかっていう“0(ゼロ)”から考えることが増えています。そのブランドの持つカタチや色や香りも分からないところからスタートした時にデザイナーの話を聞くことで、もしかしたらこんなカタチでこんな色で、こんな香りなんじゃないかとぼんやりと見えてくる。そのように道を一緒に作っていくプロジェクトが徐々に増えていますね。それはアパレルに限らず、ホテルを作ることとか色々なことにおいて、問題を作るところから始める仕事が増えている気がします」
――そういった声を聞いていく中で、最近の傾向として、共通項だったりキーワードを漠然と感じることはありますか?
「僕はずっと事務所のメンバーに向かって“矛盾”とか“違和感”を大事にして設計しようと言っていました。“矛盾”ってすごくネガティブな言葉ですけど、人が感動したり、驚いたりする瞬間には、矛盾や違和感が存在しているんです。これから感動しますよっていわれたら感動できないし、思いがけないことがおこるから感動するのです。でも世の中もそれを求めている。安くていいものが欲しいというのも矛盾しているわけで。狭い部屋だけど広く見せたいとか、暗い場所だけど明るく見せたいとか、挙げればキリがないほど、みんな矛盾を求め続けている。そんな相反することが同居しているという状況はすごく心地いいものなので、最近は矛盾や違和感が成立しているものに、みんなが興味を持っているんじゃないかなと考察しています」
――谷尻さんがアイデアを考えついたり、インスパイアされるときってどういう状況が多いですか?
「僕は人と話しているインスパイアされますね。本当はこうしたいんだよな~って人は悩みや問題を口にするわけです。問題を口にするってことは、解くべきことが分かっているってこと。それは一番考えやすい状況。問題が見えない時が、一番考えにくい状況ですね。みんなが問題があることに対して、モヤモヤしていて解けなくて悩んでいるから、その問題が何故起きたのか、その問題の本質がどういったところにあるのかを考えれば、自ずと問題は解けるものなので。僕は物事をさかのぼって考える“さかのぼり思考”なんですよ」
――今後、オリンピックまでは景気が良くなるかもしれませんが、それが終わった後、経済が衰退してしまうなど非常に不安定な状況ですが、その状況を踏まえて今後はどういった活動をしていくべきですか?
「とにかく社会に依存しないことですね(笑)。社会が変わっても、自分がしっかりしていれば、どんな状況でも対応できる。あまり社会情勢や経済に左右されると自分の能力と無関係になってしまうので、単純に今目の前にあることと向き合って、ちゃんと目の前にある問題を解いていければ、どの時代でも同じようにできると思いますよ」
――建築業界は今後どうなっていくと思いますか?
「今、建築業界はバブル。建築コストもどんどん上がっているので。少し、オリンピックバブル的な状況が生まれていると思うんですけど、でもそれは一過性のもので。ただ、それは時代として良い時期もあれば、悪い時期もあると考えて、あまり気にせずにやっていくだけですね」