軸を変えずに時代に寄り添うテクノロジー×ファッションの今
CANALIZE meets Kaie Murakami
人間の欲望と理性の戦いの中、
多様な価値から何を選ぶか
――先ほどのお話しよりもだいぶ手前の話になりますが、現状のリアルなファッションに関していうと、大量生産が行き詰まりを見せてきて、本質的な視点でモノがきちんと評価される時代が来るのではないかという考えもあるようですが。
「理想的な話ですが、世界規模ではいまだに大量生産消費型の経済を目指して突き進んでいます。過去20年の間に日本市場へのアパレルの商品供給量は2倍以上に膨れ上がったにもかかわらず、セール後の最終消化率も50%を割り、膨大な在庫がアジア諸国へシーズン落ちのアイテムとして輸出されているという現実があります。インターネットの普及によって、人々の知識や選択肢は増え、マイノリティの声が大きくなったこととは裏腹に、マス市場では、世界的な低コスト化や均質化が加速しています。この問いかけは、最終的に社会的利益を優先するのか、それとも個人の欲望を優先させるのか、という選択の話になってきます。日本人は、未だに世界にある教育や経済格差からかなり多くのメリットを享受しています。本質的なモノづくりからなる理想的な未来を実現しようとしたとき、ぼくたちは自分の生活とのトレードオフができるのか。大量生産をやめてフェアトレードを選択したとき、諦めなければならないことが余りあるという状況を、本当に受け入れられるのか。ぼくたち自身が試されていると思います。」
――ムラカミさんの主観としてはどういうお考えですか?
「自分の役割は、そういった理想と現実の間にある問題をクリエイティブに解決する方法を企業に提案しながら、継続的に循環していくあたらしいシステムを作りあげていくことだと感じています。数年前に、佐久間裕美子さんとPERISCOPEを立ち上げたり、これからの未来の生活や価値観を伝えていくためにdia Standardというライフスタイルメディアのローンチに参画したことで、理解をしてくれる企業や人たちは徐々に増えてきました。自分自身、これまでいろいろなものを購入し、失敗してを繰り返してきたことで、モノに求める価値や、“所有する”ことへの考えがはっきりした時期だったし、社会貢献できることと仕事への向き合い方が合致したことで、精神的にすごく楽になりました。少し前は、家を買うことは日本人の大きな夢だったけれど、その家のなかを埋めるために、人はまたモノを買う。また、震災のときには、過度の所有は自分の行動だけでなく、自身の可能性すら制限してしまうことを痛感しました。いまは、自分が日本の経済成長によって刷り込まれた幻想からようやく解放されたっていう感覚があります。」
――その体験を経て、今はどのような生活をされているんでしょうか?
「いまぼくは小さな住まいを借りて、これまで買ってきた家具や家電、生活用品を手放したり、何かと交換してもらったりして、本当に必要なものだけを選び、残していくっていう生活をしています。そんなことを繰り返していくうちに、人間は死ぬ間際に何が残っていれば幸せに感じるんだろうって考えてみるようになったんですね。極端に言うと、最後に病床に持っていくモノを考えたとき、それが、“家族写真”なんじゃないか、っていう結論に至ったんです。人は、生まれた時から死に向かって生きています。死の直前に最後に触れたものが、自身にリマインドされ自分の人生の価値を決める。人間って、どこまでいってもエモーショナルな生き物で、記憶っていうものの捉え方ってとても個人的で、何よりも大切なものです。その記憶の価値を一番わかりやすく表現するもの、人生の価値を体現できるものは何だろうって考えると、答えはシンプルだった。だとすると、そこを逆算していまを考えるっていう生き方も悪くないんじゃないかって。いま、お金の使い方で心がけているのは、体験への投資です。友人と時間を共有する、おいしいものを食べに行く、感性を磨いたり感情を呼び起こすための旅に出るといった体験、共有価値には惜しまないようにしています。」
――では、その考えのもとで、モノを買う基準っていうのはどういうものなんでしょう?
「衣服を買うときは、白、ネイビー、黒が基本で、他の色はほとんど着ません。昔から顔に特徴がないので昔から覚えてもらいにくいんですね。なのでワントーンにして、印象をはっきりと、コロコロ変わらないようにしています。あと、何よりも学生時代から着慣れたネイビーや白を着ているときは、断然自分らしくいられる気持ち良さがあります。実際、自分がすべきことが明確になってからは、服装で自分を過度に表現することよりも、手や口、仕事などの自身から発せられることにフォーカスしてもらった方が話が早いし、いつでも同じパフォーマンスが発揮できるように気持ちを平静に保ちたい、といったようにファッションに求めていることがはっきりしました。40歳を超えてようやく自分のスタイルが見えてきたっていうことなのかもしれませんね。あとは素材や形、デザインを選ぶだけになっていくので、決断も早くなる。衣服って、素材×色×シェイプ×デザイナー×ブランド×……っていう沢山の情報タグが集まったものなので、そのタグが増えれば増えるほど、主たる自分がぼやけます。選ぶときの変数を減らすことで、そこにかかる労力を、経験や未来への投資に切り替えることができる。もう一つ考えなければいけないことは、IoTによって今後医学や健康管理が発達していくので、これまでの常識を超えた人類の高齢化を想像すると、未来への投資はこれまで以上に意味合いが強くなります。長い目でどう人生設計をするか、その時、僕らは所有するという行為をどう捉えておくのか、常に仮説をもって想像しておきたいなって。」
ムラカミカイエ/Kaie Murakami
1974年生まれ、クリエイティブディレクター。三宅デザイン事務所を経て、2003年に独立。ブランディング・エージェンシー、『SIMONE INC.』を設立し、テクノロジー施策を軸に企業のブランディングやコンサルティングを手掛け、国内外の広告賞を多数受賞。2011年には2シーズンにわたり、Mercedes-Benz Fashion Week TOKYOのキーヴィジュアルを担当。東日本大震災のときには、被災地支援を目的とする『SAVEJAPAN! PROJECT』の発起人としても注目を集める。
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