軸を変えずに時代に寄り添うテクノロジー×ファッションの今
CANALIZE meets Kaie Murakami
ソーシャルグッドの再認識、
売れるモノから求められるモノへ
――アートディレクター、経営コンサルの立場からのご意見も伺いたいのですが、企業側から求められているデザインの方向性や、発信していくメッセージの方向性にここ数年変化はありましたか?
「大きくは、世界中どこへ行っても通用するデザインって?っていう視点があります。そのなかには、個を立たせるデザインや、万人に愛されるデザインなど手法は様々あれど、最終的に、隣人やコミュニティとのつながりや環境全体を意識した公共性を加味したものであることが求められているように感じています。いまになって、クリエイティブシンキングという言葉が表立ってきましたが、いよいよ経営とクリエイターが密接に繋がらないと世界は変えられない、社会で認められるものは創造できないっていう意識が浸透してきました。これまでの”どういうデザインにすれば売れるのか”っていう発想から、“社会がどういうデザインを求めているのか”、という方向への転換。ここ数年でそういったマインドシフトが経営者や企業の間で急速に進行している実感があります。」
――その背景にはどんなことが考えられるんでしょう?
「いまソーシャルグッドっていう大きなテーマがあります。自分たちの個性やアイデアと、社会利益の接点を見出しながら、ビジネスをドライブさせていく流れです。これは、成功するビジネスの模範的モデルとして昔から当たり前に言われていたことですが、これまでと大きく違うのは、未来とのコミットメントや創造性の有無、あとはローカル性です。そういった動きがいま目新しく見えてしまうぐらい、戦後の大量消費経済の暴走は当たり前のことから、ぼくたちの目を背けさせていたということなのかもしれない。いまデジタルネイティブと言われるミレニアルズ世代の市場牽引力がこういった流れを加速させていますが、彼らの面白さは、その当たり前が若い時から価値判断のなかに内在している点です。米国の大統領選でのバーニー・サンダースへの熱狂は、その典型的な事象としてあげられます。過去の人類の暴走を横目で見つつ、インターネットを活用しながら本来あるべき姿を道徳的に判断する人たちが、新しい秩序やマナーを作り上げようとしている。彼らの発言を聞いていると、僕ら世代が一番そういった過去の呪縛に囚われていることに気づかされます。」
――当たり前の価値観が備わっていなかった30代以上が、今行うべきことはなんだと思いますか?
「こういった様々な特色をもった世代、国籍の人たちがインターネットで繋がったいま、ぼくたちの課題は、目の前で起こっている困難や現実、そして社会や世界全体が直面している様々な問題に対して、その全体を理解をし、対話していくことだと思います。先ほどの話にもあったように、階層が取り払われるということは、いままでの秩序がリセットされ、恩恵と責任のあり方が、ガラッと変容していくということです。これは、人類が経験のしたことのないフラットで階層のない世界に近づいている、そんなエキサイティングな時代に生まれているからこそ、体験できることです。それらに対して現実性を伴って動き始めたとき、ぼくたち人類は次のステージに進んでいくのかもしれません。」
Fin
ムラカミカイエ/Kaie Murakami
1974年生まれ、クリエイティブディレクター。三宅デザイン事務所を経て、2003年に独立。ブランディング・エージェンシー、『SIMONE INC.』を設立し、テクノロジー施策を軸に企業のブランディングやコンサルティングを手掛け、国内外の広告賞を多数受賞。2011年には2シーズンにわたり、Mercedes-Benz Fashion Week TOKYOのキーヴィジュアルを担当。東日本大震災のときには、被災地支援を目的とする『SAVEJAPAN! PROJECT』の発起人としても注目を集める。
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