音楽が簡単につくれる時代において

プロとしてできることとは？

――音楽業界が苦戦する中で、MONDO GROSSOの復活ライブが話題になっていましたが、あっという間にソールドアウトになったと聞いています。

「おかげさまで(笑)。僕ね、音楽は売れないって言われてるけど、逆の発想をすると、お金を出してまで買う価値のあるものをアーティストがつくれていないって現実もあると思うんですよ。だからみんなイベントの集客にも苦労するんじゃないかな。だって、ネットを開けば世界のトップDJのミックスなんて全部アップロードされてるし、レアな情報も最新の音楽もクラブに行かなくたって手に入るわけですから。もちろん、クラブには音楽だけじゃなくて、会話とかお酒とかいろいろな楽しみ方があるけど、音楽情報に関していえばネットのほうが充実してる。だからその中で生き残っていくには、やっぱり誰も聴いたことがないような音楽を自分でつくるしかないですよね。しかもその音源も、単に世の中に出ていないってことじゃなくて、未来永劫聴き続けられるような名作をつくるしかないと思うんです。たとえばソウルに関していえば、70年代のスティービー・ワンダーに拮抗するか、あるいはそれを超えるものを目指さないとお金を払ってもらえないと思うんですよ。だからライブにしても、五千円とか一万円払ってでも行きたくなるようなコンテンツと場所でやらないと」

――MONDO GROSSOのライブでは、そういうものが見られるということですね！

「それは人が決めることだから自分では言えないけど、ただ自分が納得して自信がもてるものをつくっていくし、イベントやフェスティバルでも他では見られないもの、しかも高いお金を払ったとしても満足して帰ってもらうものを提案していくと思います。だから、MONDO GROSSOのトリビュートライブも、やっぱりあのメンツで昔のMONDO GROSSOの曲を再現する、しかもBillboard LIVEでやるからソールドアウトするわけで。仲間と集まってスタジオ入ってリハーサルして、『なんかいい曲できたよね』ってぽろっと出したものじゃ、誰も買わないと思うんです。厳しい状況だけど、逆に言うと、本当の意味でアーティストの真価が問われる時代なんだと思いますよ。この20年で誰でも音楽ができるようになって、誰でもDJができるようになって、たどり着いたのがここじゃないですか。でもこの先は、本当のプロとか本当の天才が誰なのかが証明されていく時代なんじゃないかな」

――“ユーザーがピックアップしづらい時代”という話があったと思いますが、プロと素人の境界線が曖昧になっている印象もあります。

「すごく厳しい言い方をすると、たぶんアーティストになっちゃいけない人が、今アーティストになってるんですよ。昔のジャッジだったらどう考えても引っかからない素人みたいなミュージシャンがたくさんデビューしたから、もう一回プロというものの線引きが必要なんです。フォロワーが多いとか少ないとかじゃなくて、そのカリスマ性とか作曲能力とか、見てくれも含めて、もう一度プロのスタンダードが問われている時代だと思うんですよ。だって、『お金がないからつくれない』って言う人がいるんだけど、本当のプロはお金がなくてもつくるんです。バイトでも借金してでもつくるんですよ。モチベーション自体も問われているんだと思いますね」