好きなものを追求することで、自分と店をアップデートする
CANALIZE meets Anri Maeda| ワインとおつまみの店<vanmari(ヴァンマリ)>オーナーソムリエ、シェフ 前田杏理

2019.11.05

—独立はどんなきっかけで? 

はじめから自分でお店を持ちたいという考えは無かったのですが、手に職を、というのはどこかにありました。

そうして調理師免許を取り、ワインを勉強するようになって、自分が思ったワインを出したいな とか、自分だったらこうするのにな とか、シェフに怒られてばっかりで嫌だな とかも思ったりして(笑)。

Pomme de Pinの松本シェフも、Le Boutonの杉山シェフも、ずっと私に“お店をやるのは楽しいよ”と言い続けていたんですよね。“ほんとにお店やってよかった”という話をいつも聞いていたので、“お店ってやるものなんだ”と思うようになって。

自分の世界、空間を持ちたいという思いは昔からあったので、世界観は頭の中で作っていましたね。自分の誕生日に自分のお店をオープンしようと決めて、お店の色はこの色とか、迷わずにバンバン進めていきました。家を作るみたいな気分で、すごく楽しかったです。自分でイメージしたものがどんどん形になっていくのを見て、毎日うきうき、わくわくしてました。

 

ところが、オープンの1か月前くらいから、どうしよう、できるかなと不安が押し寄せてきて。お店が完成した時には、ここからがスタートなのに、“何を出したらいいんだろう、お料理どうしたらいいんだろう”と、ますます不安が募り、お店に来るのが怖く感じる様になっていました。それでも予定通りにオープンしたのですが、ついに体調を崩してしまい、オープンしてすぐに、休業することになったんです。

—大変な経験でしたね。どのように乗り越えてこられたのでしょうか。

11月6日にオープンして1週間だけ営業した後、年内いっぱいお店を閉めていました。

両親が過保護だったので、大人になった時に自分で何かを形にしたい、自分で決めるものを持ちたい、というのがずっとどこかにあったんですけど、実際やってみたら自分のダメなところがすごく分かって。親の敷いたレールに沿って生きてきたというのは、私に向いていることを選択してくれていたんだなと、改めて感謝しました。

 

休んでいる間は、ずっと家の中にいて外に一歩も出ない日が続き、どうやって乗り越えたらよいのか見当もつきませんでした。母が心配して良く家に来てくれて、恩師や親友に話を聞いてもらったりして、気持ちにも体調にも結構波があったのですが、やがて、年が明けたらもう一度オープンしようと思えるようになりました。

 

なんとか再オープンして10日程経つと、だんだん感覚を取りもどしてきて、そういえばこうやってやってたなって。Le Boutonもカウンターフレンチでお客様との距離感が近く、お店の外でも一緒にご飯を食べに行ったり、旅行したりしながら楽しく仕事をしていたんですが、その感覚を忘れてしまっていたんですね。私も10年飲食を経験してきたので、やり始めて回ってきたら、思っていたことができるようになってきて、今に至っています。

日々やりながら、“今日はすごくいい営業だったな”とか、“暇だったけど素敵なお客様がいらして良かったな”とか、そういうことを思うようなポジティブな気持ちになりました。

今でも、お店に来るまでは調子が出ないこともありますが、やっぱりお客様と話をするのがすごく楽しいし、お店に立てばスイッチが入り、切り替えができる様にはなりましたね。

おかげさまで、最近はたくさんのお客様が来てくださって少し忙しくなりました。特に新しいメニューを出すときにはドキドキしながら反応をうかがっているのですが、“おいしい”って聞こえてくると、良かった~、と思いますね。満席の店内をカウンター越しに見て“わぁっ”と手ごたえを感じることも増えました。

 

 

—ご自分の中で、何か変化がありましたか?

初めにオープンした時には、ちゃんと構えて覚悟を持ってやるという気持ちが薄かったんだと思います。今は、そういうものが出てきました。そのためにも、その時その時に頑張りすぎるのではなく、丁寧に暮らし、丁寧に接客し、丁寧に料理して、長く続けることを考えようと思っています。

 

お客さん来るのかな、売上は大丈夫か、あと何年やらないといけないんだろう、などと、いつもどこか不安にあります。でも、きっと これはずっと続くものだから、こんな気持ち排除したいとか、これをどうしても無くしたい、と考えるのをやめて、受け入れながらやればいいと思うようになりました。

 

何も考えずに30代まで生きてきたことが幸せだったんだなと思いますし、壁にぶつかったことで、人が弱くなる時の気持ちを分かるようになれたのかもしれないと思います。

 

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Text:Yurina Goto
Photo:Takuya Saito

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